20221017

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ÖKUMENE

もう既にチェックしていただけましたか、ルロウズ新譜『ÖKUMENE』大好評配信中です。各種サブスクでも聞けます。今回はプロモーションも兼ねて各曲の解説を書きます。

1.MOB
元々はギターも入っていて、もっと展開のようなものを差し込んでいたのですが、野口ルロウズで演奏した際にもっと仕掛けを減らそう、時間の流れとダイナミクスのみで抑揚をつけよう、と試行錯誤した挙句ギターも消え、展開もなくなり、超ミニマルな曲となりました。
ライブで特に評価が高くて、裏切ったりスカしたりするポイントも少ないので、初めて聞く人も安心な楽曲です。前奏をどれだけ引っ張ってもいいので、USツアーでは始める時に人がまばらだったら暫く前奏を鳴らして人が集まってから歌い出したりしてました。あとはロックバンドで一番かっこいいとされている1曲目の歌い出しの直前にボーカルが袖から出てくる、っていうのもやれます。
PRIMAL SCREAMってスクリーマデリカ前後のアルバムくらいが人気ですが、私はその後の3作くらいが好きで、その辺のイメージの、ちょっとフェイクぽいレトロフューチャーなエレクトロパンク、みたいな仕上がりをイメージしました。ベースにはいちばん下品なフィルター系のディストーションをかけて、ドラムはフィルとかとにかく入れずに打ち込みのようなハンマービート。

2.招待の無い
言葉遊びは昔から好きだったし、今も好きだし、今後もきっと好き。ナンセンスもジョークもシリアスも全て受け止めてくれるからロックミュージックは好きです。この曲はアレンジに結構苦労した記憶がありますが、俯瞰した時に何かひとつが、この曲においては歌だけがグルーヴしてれば後ろで何しててもそんなに影響がないだろう、と思って出来る限り引き算をしていきました。
HeyとかYeahとかYouとかDieとか、英語の掛け声ぽい響きの言葉ばかり一時期探してまして、メガネたちのコーラスが秀逸です。この曲はMVにもしてるし、ライブで演奏すべきだなあとは思うものの、こういう超テンションぽい音楽ってこの3人でやるとちょっと弱いので、ライブ用には全く別のアレンジが必要と思ってます(それが何かはわからない)。
ギターはひたすらギラギラに。全く詳しくないですがガレージぽい音ってこんなじゃないんですか?個人的にこの音はアルミホイルを噛んだ時のような音をイメージしてます。
アウトロの合ってるのかよくわからない3連符ぽいドラムは野口くんが開発したのを整理して使ってます。リファレンスにした曲は全くないけど、強いて後付けで言えばゆらゆら帝国で考え中とかみたいな節回しがあるのかな。。

3.アルマジロ
個人的にこのアルバムでいちばん実験的な感覚があるのがコレ。淳平さんは初期パンクが大好きなのですが、初期パンクでよくあるフィルって何?って聞いた時にスネア/キック/キック/スネア/キック/キック/スネアってフレーズをもらったので、何となくネガポジ反転して冒頭のスピード感に欠けてて怖いフィルが出来ました。
所詮私たち3人は関東の中流階級に生まれ、ヤンチャ(この言葉が巧妙に隠している暗い要素が私は大嫌いですが)さのかけらもない、言うほどトラウマな人生を背負っていない人間の集まり。背伸びをしたクリオネがパンクをやっているような、線のか細いパンクミュージックが出来ました。
ライブアレンジでは大胆にドラムを無音にしてさらに意味深な感じになりました。

4.エンドロール
本作ではこの曲だけ異色。他の曲は明確にANÖKUMENE/ÖKUMENEプロジェクトのベクトルを意識して作ったのですが、この曲はテーマとか関係なく、なんとなく出来た曲でした。
アレンジは紆余曲折があって、ダウンビートで3点を同時に叩いて→じょじょに3点がずれていって→またじょじょに戻っていく…みたいな激抽象的なアレンジを当初考えていたのですが、鬼の難易度の割に歌との食い合わせが悪すぎてボツになって、一周してこういう感じになりました。
普通ぽいアンサンブルをしているけど節々でアイデアを試しています。

5.Q.E.D.
実験、ポップネス、歌詞、ポテンシャル、全てこのアルバムでいちばん抜けてる感じの曲。俺のギターを聴いてくれみたいなロックチューンですがギターの演奏が本当に簡単。何度でもいうけど本当に簡単。
ワンコードだったり歌詞が不思議な符割りだったりしてるけど、The WhoのキースムーンやDeerhoofのグレッグソーニアを意識した派手なドラム(手癖をなるべく殺すために完全に作曲してる)、ウロボロスのように互いに寄りかかったギターとベース、「時間と音と言葉がワルツのステップを踏む/魔法が辺りを満たしていく」。
願わくば大きな会場でこれを鳴らせる日が来ますように。Q.E.D.とはQuod Erat Demonstrandum、ラテン語で「かく示された(証明終了)」の略。

6.死ねばおんなじ
Media JewelerのThom Luceroがソロアルバムを作った時にボーカルでゲスト参加したのですが、その時に作った歌詞を展開して、3分くらいでトラックを作って、2テイクくらい歌って出来た曲。私はジョンレノンのレノンの魂ってアルバムが大好きなのですが、あれの最後の曲もこんな感じですよね。意識はしてなかったけど原体験クラスに聞いてるアルバムだから結果影響されていますね。
歌詞についてはメンバーから完全に一任されているところだし自分なりのこだわりなど色々あって、言葉を言葉で説明するのは野暮なのであまり触れませんが、私は基本的に喜怒哀楽の哀が作詞の下地になりやすく、でもこの曲はドライだけどポジティブな曲だとは思ってます。両義的だったり、完璧な虚無だったり無意味だったりの中に煌めきを見出す精神性こそがアートではないでしょうか。