さて、前回もいくつか参加アーティストにインタビューをとっていたのですが今回もやります。第一回は今回の濃い口のコンピの中でも一際異彩を放つ楽曲で参加してくれました名古屋の巨大な才能、堀嵜菜那(@haraheri_i)です。
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堀嵜菜那:ありがとうございます。
元々はバンドをやっていて、大学の軽音サークルで楽器と作曲を始めました。入学当初はテレビやラジオから流れてくる音楽くらいしか聴いておらず、能動的に音楽を聴き始めたのもこの頃です。全バンドがコピーではなくオリジナル曲で活動するサークルだったので、音楽をほとんど知らない状態でギターと作曲をほぼ同時に始めた感じです。
先輩たちにCDを貸してもらったり、ライブハウスに連れていってもらったりしている内に、今まで自分が聴いていたものは音楽のごくごく一部の形なんだ、と気づき衝撃を受けました。バンドといったらチャットモンチーくらいしか聴いたことなかったのに、いきなり人間椅子とかGentle Giantとか聴かされて、私の知ってる音楽と違うぞ!と固定観念が一気に壊されていく体験をよきタイミングで出来たのかなと思います。すぐにアウトプットして発表できる機会もありましたし(内容は稚拙でほんとに酷かった....)。
サークルの先輩たちがみな野心的で、スラッシュメタルとかギターロック、ファストコア、歌謡ポップなどバンドのジャンルもばらばらなんですが、みんなに紹介したいくらい今聴いても刺激的な音楽をやっている人ばかりで、周りから「オリジナルとは」を見せつけられてたのが、自分の核に大きく影響を与えました。
__サークル在籍中に急な過入力をした、みたいなスタートだったんですね。
堀嵜:バンドはサークル引退と共に解散。大学卒業から2年後に、2人のひとにほとんど同時にソロに誘われて始めました。エレキギターを使用してるのは家にそれしかなかったからで意図はないのですが、私は作曲の際、頭ではなくほとんど身体でギターパートを作ってるので、もしアコースティックギターを使っていたらきっと今のようにはなっていないだろうなと思います。
いざ弾き語りの曲を作ろうとした時、自分の思うオーソドックスな弾き語りスタイルでフォークっぽい曲を少し作ってみたのですが、受け入れがたい違和感がありやめました。弾き語りに持っている固定観念を捨てて、ただ一人で曲を作るという認識に変えて、一人くらいこういうちゃんとしてない曲を作る人がいてもいいよね、と思いながらやってみたら曲を聴いた同じサークル出身の先輩たちがすごく褒めてくれて、曲を褒めてもらえたのがその時人生で2回目だったのですが、それがうれしくて調子にのって今でも続けています。
__参加曲「崩落(Perfect Communication)」は不協和音やリズムチェンジの使用が印象的で、アヴァンギャルドさとキャッチーさがあるパラレルワールドのような音世界が圧巻です。言い方が難しいですがフリーすぎない、トータルでポップスに聴こえるバランス感覚/センスが特に私は好きでした。サウンドにおけるインスピレーション、また楽曲内で大事にしていることはなんですか。
堀嵜:ありがとうございます。
曲を作るときのインスピレーションというかモチベーションは、ミーハーなので「他者への強烈な憧れ」であることが多く、格好いい音楽を聴くとすぐ「私もこれやりたい!」と思ってしまいます。ただ作る時に具体的なイメージはなくて、「アルペジオのコード感ある曲」とか「単音のリフ感強い曲」とかぼんやりしてることの方が多いです。とりあえず手を動かして出てきたものに歌をのせてまた手を動かしての繰り返しで、完成してやっと全体像が見える。いつも行き当たりばったりでやっています。
一般的には作曲においてイメージ=事前に考えたことの具現化を目指す方が多いのだと思いますが、私の場合は作曲、とくに作詞と考えるということがイコールなんだと思います。なので曲が進むにつれ考えも進み深まっていったりこんがらがったりしていく。(保坂和志さんが『小説の自由』の中で文章について同じようなことを書いていたと思うんですが、、それを見て安心した記憶があります。)
楽曲内で大事にしてることは「開けている」ということでしょうか。感覚的なものなのですが、ポップさもその一つの形と言えます。偏りすぎずギリギリでバランスを取れたらなと思っています。なので「トータルでポップスに聴こえる」というのは目指しているところでもあり、とても嬉しいです。大事にしていてもコントロールがなかなかできないのですが、この曲は展開やギターではなく歌の強度にフォーカスしたためか、良いバランスになったと自分でも思っています。
__今回含めて堀嵜さんの諸作にはDOIMOI杉山さんやトゥラリカ/THE ACT WE ACT横山さん、またbushbashやtissueboxなど、どちらかというと硬派な音の界隈との親交が深いように思います。そういったパイセンたちからの影響、また「名古屋は東京と大阪の中間地点にあるからその摩擦から折衷的な新しい音が生まれやすい」とクリシェのように言われますが、いまの名古屋のシーンやそこから自身へのフィードバックについてどう考えてらっしゃいますか。
堀嵜:ずっと名古屋のシーンというものに自分は入れていないと思っていたのですが、杉山さんや横山さんなどの信頼する音楽家の見守りやアドバイスをもらえる環境があって今も音楽を続けていられることを思うと、ある種私もその一部なんだろうと最近思うようになってきました。
周りの音楽家の方々にはもちろん影響を受けまくってます。大学生の頃から今日まで抱き続けている、隙間のある音楽がもつ余白の美しさと自由さへの憧れはトゥラリカ(vo,gtの横山さんとdr泉さんは同じサークル出身)やシラオカなどの影響によるものです。
__隙間、余白、自由さ。どれも堀嵜さんの音に見事に結実していますよね。バンドよりソロの方が有利に感じられるような分野ですが、確かにトゥラリカはそこをうまく超越している印象があります。
堀嵜:名古屋を中心に活動する音楽家の方々はただ各々の音楽を追求することに熱を注ぎ、名を馳せることにはあまり興味がないという印象があります。独自の音楽が生み出されるのもその姿勢の元では自然なことのように感じます。
ソロを始める前はKDハポンやブラジルコーヒーやHUCK FINNなど色んなライブハウスの予定をチェックして、毎週のようにライブを観に行っていました。私はとにかく自分にあまいのでこの時に育まれたライブハウスやそこに出演する人たち、そしてサークルの先輩たちへの畏怖にも近い尊敬の念がなければ今回のコンピに参加できるような活動はしてこれなかったし、私を律する眼として今も機能しています。
__1stアルバム『壺』から2年が経ちました。当時と比べてパンデミックがあり世界はすっかり変わってしまいましたが、タフな現在の状況でのご自身の在り方、そして今後出したい音のイメージや活動のビジョンなど伺えませんか。
堀嵜:今後出したい音のイメージは正直全然ありません。全然ないとすごく不安になるのですが、そもそも今まであったことがないので.....。まぁなんとかなるだろうと思ってます。
音のイメージはないですが、録音やミックス、打ち込みが簡易的にでもできるようになれたらいいなと思っています。今は次のアルバムの構想を練っていて、前作では弾き語りからはみ出さないようはっきり線引きしていたのですが、次のアルバムでは少ない音にエフェクトをかけたり音を動かしたりしてねじれを起こさせられたらいいなと思っていて(今回の崩落でも少し試しました)、その試行錯誤を自分でもできたらと思います。
あとは移動好きなので移動したいです!気兼ねなく移動できるようになったら九州とか北海道とか、いつか国外にも行ったことのない街に演奏しに行けたらいいなと夢見ています。
__自身にとってのオールタイムベスト5枚を教えてください。
堀嵜:ベストを選べるほど音楽を聴いてきてないので、今回の収録曲を作るきっかけになった大好きなアルバムを1枚紹介します。
Bela Fleck「THROW DOWN YOUR HEART」
崩落はこのアルバムへの憧れで作りました。内容は全然違います。他人の肉体から出る知らないリズムへの憧れ。
__クレジットにあったsoilって土の音を録ったってことなんでしょうか?
堀嵜:はい。土にマイクを埋めて引っこ抜いてます。
パーカッションについて何かが足りないね、と話していたら、亀山さん(亀山佳津雄)が「粉砕工場の音とか、火山行ってマグマの音録るとか、土にマイク埋めるとか」と多分半分は冗談で言ってて、そしたらだんだん土にマイク埋めるの合いそう!と思えてきて、やってみていいですか?とお願いしました。その翌日亀山さんと公園に集まって穴を掘りました。自分からは出ないアイデアです。
亀山さんの言ってることはぜんぶ冗談だけど、ぜんぶ本気でもあると思っているので安心して乗っかれました。これはなかなか面白かったのでまたやりたいと思います。
次のアルバムも亀山さんとなにか企む予定です。