20210201

684(『MITOHOS』インタビュー:tepPohseen)

 

『MITOHOS』ロングセラー中!今回もインタビューを公開いたします。福岡のジ・オルタナティブ、tepPohseenリーダー浅田氏のお話を伺ってます。インタビュアーの私は浅田氏のことを音楽のみならずキャラクター含めて丸ごと大好きで、ついつい贔屓目で見てしまうのですが、そこを差し引いても今回のコンピレーションのエッジィで素晴らしい楽曲たちの中でもいちばん”未踏峰”のマインドを体現している印象があり私の中ではベストトラックでした。勝手にルロウズの参加曲「ヘブン」にも親和性のある曲調にも感じるんですよね。


tepPohseenは今回のコンピに参加頂いた方の中でも最長のキャリアと思います(1998年結成)。私は1stアルバム『Some Speedy Kisses』(2016)で知って感銘を受けた完全な後追いなのですが、当初はノイズ/エクスペリメンタルな事をやっていたと聞きました。元々のバンドの成り立ち、現在のスタイルになった経緯や、ちょっと前の話にはなりますが1stアルバムのリリースまでに約20年かかった理由などもお聞かせ頂けますか。


浅田(以下A):あらゆる手法、実験により深化し続ける音楽、その素晴らしさに反応する人の認知や共有により多く知られる事となった現代の音楽的意義をもつノイズ、実験音楽とは異なります…。

90年代中頃にYAMAHAのSU-10など低価格のサンプラーを手に入れた事が始まりです。格好のサンプルとなるテレビ発信等による著名人の発言を集める事や加工する事、そこに自作の音を重ねるなど。

デタラメというかなんというか…だから何?という地平線が続いてました。


では当初はもっとラディカルで自家消費的な表現だったんですね。


A:そんな折にもうどうしても「一度で良いからライブがしたい、絶対したい」と思うようになり数少ない友人の1人に声を掛け、その時から弾けなかったけどギターを使用するようになりました。たった一人、誰もいない何もない砂漠なのか密室なのかもよくわかんないような所から出発し、友人と二人で合わせる為に音程やテンポが出来て音楽になっていく様や、スタジオなどの次の約束がある事などにとても感激しました。そうして始まった長い音楽活動は失敗だとか衝突だとかの出来不出来、奇跡を繰り返し現在に至ります。

元々が音楽と言えるかどうかわかんないとこから始まったので時間が掛かったのかも知れませんが、多分僕にとっては必要な時間だったと思います。


クールな質感、ギターのクリーントーンで鳴らす旋律や淡々と煽るアルペジオなど、tepPohseenの音には浅田さん節、というか美学が徹底的に貫かれている印象です。サウンドにおけるインスピレーションや楽曲内で大事にされている事を教えてください。


A:普遍的である事、特徴がないようにしたいなと思ってはいます、抑揚がないように。重なる音のお互いの距離とその進み方を考える事は好きです。ただそこにはどうしても好みによる決定が出てしまうのですが今、一緒に演奏してくれている人達はとても面白い提案や訂正を出してくるのでなんというかとても楽しんでいます。僕のフォーマットで開発してきてくれる感じ。


普遍的や抑揚を抑えるっていうのは理解出来ますが、特徴がないようにしたい、っていうのはかなり印象的な言葉ですね…。凄く面白い発想と思います。


A:今回の収録曲に関しても主題も伴奏も作ったのは僕じゃ無かったし、4分半まで僕はギター弾いてないです、シンバル叩いてるだけ。あとついでにみんな1人残らず僕よりギター上手です。自分を変えたい、と言う永遠の目標があるので今の状態はとても良いです。自分の気持ちや考えを進めるための曲を。聴いてもらう為に、という事はあんまり考えてないかも…。


 

浅田さんの日記からも伺える通り自身のスタジオを作ったと聞きました。「シーケンスが見る夢」は初の録音になるのでしょうか?またコロナ濃厚接触の話など含め、録音中のエピソードなどあればお聞かせください。


A:そうですね、初めての録音でした。とても嬉しかったです。日程の都合上、弦楽器などの録り直しは別のところで行いましたが今のところ十分な成果かと思います。

日程に関しては当初充分な期間を頂いていましたが不用意なライブ出演をし、全員が新型コロナウィルスの濃厚接触者か患者となってしまい会う事すら出来なくなりました。この事については2020年10月24日の日記をご参照頂ければと思います。


全員やられたんですね…!


A:皆が濃厚接触者とわかった日に大阪在住の丸山くんから録音参加の為のスケジュール調整の連絡があり、それに対して「来るな!今ここに来てはダメだ!」と悲壮な感じで言い放った僕の背後にはきっと雷が落ちていたし、編集部からは「衝撃の展開、絶体絶命…!!」などの煽り文字が入っていたかと思います。


多様な音が収録されたコンピですが、個人的には本曲こそが『MITOHOS』、そしてキュレートする私にとっての「未踏峰」の精神性をいちばん端的に表現している音に感じられました。この音にはある種の弱さとか脆さ、不器用さのようなものがあって、その一方で凛とした美学、カルマのようなプライドも感じられます。あとたまらなくギター・ミュージックということ。長い曲かつ割とミニマルな構造ながら滔々とした展開のせいか長く感じさせません。浅田さんは「SF」と表現していますが、詳しく伺えますか。


A:ありがとうございます。まず「SF」と表現したことに関してですが、「想像すること」をもう一度よく考えようと思いました。わからない事は自分で調べる、の間に「想像する」を入れようと思って。この音楽ってどんなのかな?こう言う文脈で知った音楽だけどどんな曲調だろうか、こんな風かな?と思っている間に調べた結果とは違うもう一つ別の架空の音楽が出来上がってる感じです。その時にこういう曲だったらもうマジでお手上げだなってイメージを。


モチーフに対して敢えて主観を強めにして仰望してみる、という事なんですね。それでいて自分のパートを徹底的に消せる/全体では特徴のない音を志向するというのが不思議なところですね。


A:「自分の能力」という枠とか前提が完全に取り払えるので想像するだけなら何でもあり。「未知のもので架空のもの、想像する上でもっともドキドキする事」という意味で「SF」だと思いました。誰もが皆、普通にやっている事だと思うのですが、そこを無駄にもう一回。意識的に。


tepPohseenはメンバーの住んでる場所がバラバラと聞きましたが、おそらく浅田さんはずっと福岡だと思います。「問題」というイベントを継続していたり、界隈/シーンというものについて意識的な活動されていると思うのですが、当時~いまの福岡のシーン、そしてそこからの自身へのフィードバックについてはどう感じてますか。


A:そうですね、昔も今も中心にいるわけではないので個人的な感想ですが、新しいバンドの表現は多様化し、活動歴が長いバンドも柔軟に変化していて凄いな、と思います。

なんというか否定的な気持ちで自分を表現する事が多かった時代から演奏自体を楽しんでいる、〜でなくてはならないといったような、よくわかんない不文律?がなくなっていっている様に感じます。自らの相対するものが怒りや人ではなく、どこかにある無関心や知識に向かっているような。


本曲はひとつの到達点と思いました。今後出したい音のイメージや活動のビジョンについてはいかがでしょうか。


A:活動のビジョンについて、ここの答えにとても時間がかかりました。

現状コロナ禍といわれるなか、意識的にも内容的にも変化します。今まで音楽家、音楽関連を生活の軸とされている方々の恩恵を確実に受けて活動できていました。作品であったり、施設であったりシステムであったり。

そういった方々が窮地に立たされている現在、その方々の+になるような、出来る事はやりたいと考えています。一方で音楽が収入に関係ないとはいえ僕も音楽をしていなければとても生きていられません。まだうまく言葉には出来ない新しい価値観と方法を考えたいと思います。皆と相談しながら。先人の音楽産業史(業界という意味ではありません)に敬意を持ちながらも真似をする様な進行ではなく、演奏する側、聞く側も全部一緒になる様な。


tepPohseenの音にとって、あるいは自身にとってのオールタイムベスト5枚を教えてください。


A:難しいので1枚で!すみません!多分あまり注目されなかったコンピこれは影響受けました!
『Various - Lo-Fi - ~Electric Acoustic & Radical~』



tepPohseen
1998年、福岡にて結成。
4人編成で活動中。
通りの良いシンプルなリズムに弦楽器のアンサンブルを展開する楽曲。

 2016年9月25日、ギューンカセットより1stフルアルバム
"Some Speedy Kisses"リリース。