20210220

688(『MITOHOS』インタビュー:miu mau)

 

年末にリリースしてロングセラーとなっているコンピレーション『MITOHOS』恒例のインタビュー、そろそろこのページが何のページかわからなくなってきたので終了するのですが、そんなところに素敵なインタビューをさせて頂きました。今回はDEAF TOUCHレーベルオーナーHessaumがベストに挙げていたmiu mau高島氏のインタビュー。元レーベルメイトだし割と以前からのご縁だったのですが、改めて高島さんは本当に誠実/実直な人だなあ、私も人に対してそうありたいなあ、と節々で気付かされる爽やかな風、清らかな水のような一連のやりとりをさせていただきました。


miu mauは高島さんソロ(coet cocoeh名義含む)や百蚊、雅だよ雅、SACOYANSなどなど皆さんそれぞれが広く活動をされていて、メンバーが各々独立した世界を持っているように感じられる一方で音を聴くと堪らなく”バンドらしさ”を感じられて本当に良いバランスだなあと思います。元々のバンドの成り立ちや現在のスタイルになった経緯などを伺えませんか。


高島(以下T):熊本を拠点に活動していたバンドが活動休止になり、しばらく経った頃で、福岡で新しいバンドを始めたくて、私から二人にデモが入った音源を渡して声をかけたことが始まりです。

二人のライブをそれぞれに拝見していたのですが、イメージがふわっと広がって色々結びついたので、みわこちゃん(dr)は音楽の友人を介して、ひろみちゃん(梶原:gt)は不躾ながら突然声かけました。初スタジオでは嬉しさと緊張が入り混じっていたことは覚えてます。


高島さんの中にmiu mauの音に対するビジョンがあって、そこにお二人を誘ったという順番なんですね。


T:当初はドラム、ギター、キーボードのベースレスで、数回ライブを行った後にシンセベースを取り入れ現在のスタイルになりました。「Fanfare」という今でも続けている自主企画で初ライブ(2007年)、同時にEPもリリースしました。

ひろみちゃん、みわこちゃんは当時から現在も多忙ですし、それぞれが基軸がある上で調整していて。環境も生活も長い期間の間にそれぞれ変化しているので、お互いのペースを守りながら、ずっとマイペースな活動をしています。私自身は二人にいつもいつも助けてもらっています。

赤倉さんとはmiu mauの1stの東京レコ発(2008年)の頃からなので、すごく長い期間miu mauを知ってくださっていますよね。良いバランスとそう言っていただけるのはとても嬉しいです。


なにげにレーベルメイト(PERFECT MUSIC)だったんですよね!いまもこうしてご縁を頂けるのがうれしいです。


時にミニマル、硬質と評されるmiu mauの音について、「無駄な音は鳴らさない」「凛としている」という意味では確かにそうなのですが、 私の印象としてはライブのイメージ含めて楽曲の表現に忠実であるという感じでクールさは常にありつつも、梶原さんやみわこさんの弾ける/煽るプレイもあってラウドだしロック的フィーリングがありますよね。サウンドにおけるインスピレーション、また楽曲内で大事にしているものはなんですか。


T:楽曲の原型というか枠組み的なものは私が作り始めることが多いです。デモを作る段階で、まずは指標になるビートのようなものを仮に決めて、それからイメージを段階的に広げています。何か特定のジャンルのマナーとかを踏まえることはないです。鍵盤でシンベなどを弾いたり歌ったりしながら地道に。

ただ、歌詞については一番最後に作っていて、言葉のひらめきがあるまでなかなか定まらないです。映画やファッション誌などを見て作ることもあれば、中洲のネオンから着想を得たこともあり、視覚的なところにきっかけがあって、そこからコンセプトを設定してイメージを膨らませることが多いように思います。


毎回デモを二人に送る前には受け入れてもらえだろうか、、、と気持ちに緩急がありますね。スタジオで音を出すと一瞬でmiu mauの音になるので、二人のスキルの高さ、音楽の幅広さ、懐の深さみたいな部分、いつもすごいなぁと思っています。みわこちゃんは構成やタイミングなども込みでほぼ完璧に曲にアプローチしていて、ひろみちゃんははっとする電撃的な音(サウンド)を鳴らしてますね。私はギリギリまで歌詞を書き換えることが多いです(笑)。

二人の個性的なサウンドの源については謎めいていますが、私の個人的な目標というかアプローチとしては最小限は最上級にかっこいいというか、そういう音楽に刺激を受けることが多いので一つの理想ではあります。でも、最小限の捉え方はmiu mauの中でも統一していなくて、その違いとか迷いみたいな部分が良い意味でこのバンドらしさにつながっているのかなと思ってます。


私が香川暮らしになってからはスタジオに入る機会も限られてきたし、久しぶりに3人揃って会うのが次のライブ、ということも無かったわけじゃない…というかよくあるので、そういう意味でも、miu mauのライブはある種の即興性があると思っていて。

それは、音の配置は変わらなくても、演奏するメンバーの元々持っているロック的な捉え方が良い意味で可視化されるような感じ、というか。そういう部分が赤倉さんのいうフィーリングになっているのかもしれないです。


自身で書かれていた創作メモに完全リモートで作った、そして高島さん個人としては難しかったとありました。具体的な内容など含めて創作時のエピソードをお聞かせ頂けませんか。


T:これまで通りであるならば、福岡でスタジオに入って制作していたと思います。赤倉さんからお話しをいただいた頃、三人で同時にレコーディングというのがタイミング的に難しかったことと、コロナの影響もありますし、これを機にリモートでファイルのやり取りをしながらレコーディングしてみようということになって。ざっくり構成が決まっている枠組み的なデモを元に、各自で録音しました。

最初はドラムで、このドラムの演奏にひろみちゃんと私が付いていくような形で新しさを取り入れていこうと。これまでの最小限のスタイルではなく、端々に音を重ねることにしました。


今回の楽曲は歌詞がなくヴォカリーズになっています。


T:ドラムとギター以外のアレンジを考えていく段階で、歌詞もつけてみたのですが、聞かせどころがいっぱいなので、多層的な声は入っていますが、言葉をのせなかったことでサウンドにも余白が生まれたかなと思っています。

音を間引いたり、配置する部分の難易度は個人的にとても高かったですね。でも二人の演奏からとても気付かせてもらえた1曲になりました。


タイトルの由来についても伺えますか。


T:タイトルは、クラシックなどで使われている音楽用語「自由な速さで」という意味の速度記号のひとつです。世界共通の言葉にしたいと考えて、三人で相談しながらみわこちゃんが最終的に選出しました。

スタジオで顔を見合わせて作り上げていくこと、良い音で録って残していく、というこれまでのセオリーとは全く違ったため、レコーディングは全員試行錯誤しましたが、なんとか完成でき、2020年だから作れたmiu mauにとっても貴重な記録になりました。コンピ参加曲全曲素晴らしくて、私たちも参加させていただいて本当にありがとうございました。


梶原さんみわこさんは現在福岡、そして高島さんは現在香川に住んでいらっしゃいます。もともと出身は熊本と伺ってますが、そうした色々な場所と音をご存じの高島さんから見て、いまの香川のシーンやそこからの自身へのフィードバックについてはどう感じてらっしゃいますか。


T:私は拠点を聞かれると気持ち的には九州と香川が半分ずつという感じですが、その時々に住んでる街で音楽を作っています。どの街にも生活を続けながら長い期間音楽を鳴らし続けている方々がいることが本当に素晴らしいことだと思ってます。


香川のシーンについては語れるような立場ではありませんが、TOONICEがオープンしてからは、九州で体感してきたライブ環境ととても近い感覚があります。オーナーの井川さんの元に県内外から音楽の好きな人が集まってきているという印象です。私自身は香川暮らしになり演奏する機会は少なくなりましたが、ジャンルで括らないライブやイベントに行く事は多くなりました。国内外からツアーで回っているミュージシャン・DJを招いてオーガナイズしている方もいらっしゃいます。

他ジャンル同士の接点は近めだと思います。そういう場所で出会った方に声をかけて、イベントを企画したり、ツアーミュージシャンのライブを時々手伝ったりしています。音楽好きの方や、DJの方に出会う機会がとても増えて、リスナーとしての音楽の幅が広がったおかげで、九州にいた頃とはまた違う音楽の出会いや学び方が得られてます。miu mauの曲作りにも影響があると思います。


今後出したい音のイメージや活動のビジョンなど伺えますか。


T:そうですね、年齢を重ねると、着る洋服やヘアースタイルが変化していくように、音への接し方も新たな捉え方で作っていきたいな、という気持ちがあります。

音のことだけでいうと硬質さはそのままにミニマルかつ複雑さ、立体的?建築物ぽさって言ったらいいんでしょうか、そんなニュアンスを取り入れていきたいです。実際、そういう曲を少しずつ作り始めてはいるけど、状況的には曲を作っていくのには時間がかかるかもしれないですが、お互いのアイデアを活かしながら作っていけたらいいなと思っています。

個人的にはいつの日かレコーディングしたいですね。活動については、これまでと変わらずの私たちのペースで続けられたらいいなと思ってます。


miu mauの音にとって、あるいは自身にとってのオールタイムベスト5枚を教えてください。


5枚ではないのですが、miu mau始まりのきっかけになった曲やアルバムを選びました。

中森明菜 / 「禁区」

Tom Tom Club / Wordy Rappinghood

Stereo Lab / Cobra and Phases Group Play Voltage in the Milky Night

Sonic Youth / Daydream Nation