20201228

681(『MITOHOS』インタビュー:nessie)

V.A.『MITOHOS』収録の先鋭的な楽曲たちの中において一際異彩を放つ札幌のnessie「夏の遊び(Summer Leisure)」。私は日本で、世界で、いや銀河系でいちばんnessieのファンである一人なのですが、静謐な音空間に山盛りのアボイドが整然と陳列していて、構造としては歌モノってなるんだろうけど、ボーカリゼーションからエモーションの部分は綺麗に拭い取られているし、グルーヴは奇妙に平坦だし、けど掛け値なくバンドミュージックだし、ボーカルの矢野さんはミッシェルガンエレファントとゆらゆら帝国が好きだし、成り立ちから何から謎そのもの。そもそも単純にこんな音楽聴いた事がなくないですか?彼らの音の理解への一助となるよう、あるいはより一層の豊穣な不思議の森へと誘ってもらえるよう、リーダー大竹氏にインタビューをしてみました。


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nessieの異形な、それでいて美しい音楽性を形容する語彙がありません。初めて知り合った時はもっとギターロック色が強い音だったと思います。バンドの成り立ち、そして現在の静謐な音になっていった経緯を教えてください。



大竹(以下O):最初は複雑なコードでシューゲイザーやオルタナティブロックをやりたいと思いsonic youth、deerhunterみたいなバンドを意識していましたが、その後son,ambulanceやbeepbeep等というアメリカのインディーバンドを聞くようになってから何でもありなんだなと感じて少しずつ変化していきました。

しばらくは整理がつかずゴチャついた感じの曲しかできなかったんですが、友達や周りの人達と音楽や作曲の事を話したりしていくうちに段々イメージを明確に持てるようになったと思います。


当初から他のバンドとは違うビジョンを持ってるな、とは感じていたのですが、そこから更に固定観念を捨ててブラッシュアップしていったんですね。


O:特にトゥラリカ(名古屋)の匠さんには本当に迷惑になるぐらい相談させて頂きましたが、フレーズのコラージュの仕方だったりボーカルを始め各楽器のポジショニングについて話して行く内に細かい変化をつけやすい形式という事で今の音に変わっていったんだと思います。



アンサンブルのアプローチも他のバンドたちとは一線を画すものになっています。ボーカルを他の楽器と並列に並べてエモーションを排し抽象的なストーリーテリングに徹している印象があって、同様にコンポーザー/リーダー大竹くんの音は徹底的に俯瞰したバランスに聞こえます。サウンドにおけるインスピレーション、それから楽曲内で大事にしている事は何ですか。



O:ボーカルの入った音楽については言葉の意味がわからない外国語の音楽やユーミンのように匿名性の高い物が好きなので、曲の中のボーカルと各楽器の距離感は変化しても聞いている側とボーカルの距離は一定のままにしたいという意図はあります。歌詞についてもそれに追随していると思います。

曲を作る際に異なるジャンルの好きな展開を全く違う雰囲気の中に投入して違和感がないように補強して行くという事があるんですが、大体その補強部分が自分のパートになります。他パートの役割が変化した際にそれをカモフラージュするような内容を弾いている事が多いので俯瞰しているように聞こえるのかもしれません。


非常にコンポジションが強いアレンジメントの中でもさらに裏方的な役割を意識的に担ってるんですね。


O:また、大事にしている事としては他パートに対してボーカルのフレーズがどの角度から入ってくるかというのをいつも意識していますが、その結果リズムが削がれて平坦な印象になるのだと思います。



以前「ビートはolololopに敵わないからハーモニーで勝負する」と言ってるのを聞きました。そんな大竹くんは一時期olololopに参加してたり、DISCHARMING MANのレーベル5Bからリリースがあったりしています。飄々としているし超然としている印象も手伝ってnessieは孤高のバンドというイメージなのですが住んでいる札幌の近しいシーンからの自身への影響というのは感じますか。



O:単に友達が少ないので孤高になっていますが影響自体は凄く受けていると思います。

本当にごく短期間ですがサポートで参加していたolololopは元々学生時代に好きでよく見に行っていたバンドでした。今もリズムについてはさほど詳しくないですしnessieで複雑なビートをやるつもりもありませんが、このバンドのお陰でリズムをドローンとして捉える事や異なるBPMや拍子を編み込んでビートをミスリードして裏切るといった方法の存在を知る事ができたと思っています。

またdischarming manのエネルギーの大きさや周辺のシーンの変化の早さというのは強く感じていて、同じ町にそういうバンドがいるというのは活動を続けていく上での強いモチベーションになっていると思います。



今回の新曲「夏の遊び」、さらに先日の配信ワンマンで披露された新曲群を通して、現編成で更に深化しているのを感じます。今後このバンドでどういう音を作っていきたいというイメージはありますか。



O:今は一曲に余りアイデアを詰め込みすぎないようにしつつ、曲毎に重要な要素をずらしていくようにしながら沢山数を作る事を目標にしてます。

今後はドローンのような雰囲気や形式的ではなく叙情的な展開のある曲もやっていきたいですし、個人的な部分だと現在流行しているような他人の主観でサンプリングされた音楽を自分の主観で配置していくといった多重構造の要素も少しずつ作曲方法として落とし込めれるようになれば良いなと思ってます。



nessieの音にとって、あるいは自身にとってのオールタイムベスト5枚を教えてください。



O:
son,ambulance/Euphemystic

mildhighclub/Skiptracing

イーゴル・マルケヴィッチ、ジャン・コクトー/ストラヴィンスキー:兵士の物語

さよならポニーテール/なんだかキミが恋しくて

岡村みどり/ブルースでなく



nessie
sonic youthやson,ambulance等海外のインディーロックに憧れて2010年頃より大学のジャズ研究会のメンバーを中心に結成。クラシック、JPOP、ブラジル音楽等にも影響を受けながら活動中。2020年に「salvaged sequence」をリリース。