20201225

680(『MITOHOS』インタビュー:Doit Science)

ついにリリースされました、V.A.『MITOHOS』もう聴いて頂けましたでしょうか?非常にボリューミィだし濃い味付けの楽曲が多いので各楽曲/アーティストへの理解を深める意味を込めて、また新譜のプロモーションも兼ねて、今回から複数回参加アーティストのインタビューをやります。

初回は音源リリース自体が事件ともいうべき、おそらく8年ぶりの新曲リリースとなる、熊本が世界に誇るアヴァンロックの雄、Doit Scienceよりリーダーのキヨタ氏のインタビューです。

思えばルロウズが&recordsから前作をリリースしてもらったのもレーベルにDoit Scienceとnhhmbaseがいたからだし、今回のコンピもDoit Scienceとスプリットを出せないかな、とぼんやり思ってキヨタ氏に相談したのがそもそものきっかけでした。楽曲そのものの素晴らしさに加えてその意味でも、本アルバムでキーパーソン/キー曲となっております。


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快楽性の高いグルーヴ、反復といえば反復だけど阿吽の呼吸のような発音、意味深/ナンセンスなコーラス、そして着地点としてきちんとキャッチー。どこをとってもユニークなアンサンブルですよね。バンドの成り立ち、そして現在の音になっていった経緯を教えてください。

キヨタ(以下K):実は、このバンドを始めた当初は所謂ポストロックやポストハードコア的な「複雑な歌もの」みたいなものをやろうとしていたのですが、演奏力がイメージに全く追いつかず2年くらい粘った末に諦めました…。更にベースの山口くんが皆んなの反対を押し切ってベースをフレットレスにしてしまったことで当初の計画は完全に瓦解...。リズムもピッチもガタガタになりすっかり途方に暮れてしまいました。


最初から描いたいた音、いきなり会得したサウンドではないという事ですね。興味深いです。


K:それでも何とかバンドとして成立させようと諸々悩んで、そこで打開策として思い付いたのが、演奏が下手でも、或いは間違っても成立するような曲を作る、ということでした。

例えば、あるアクセントが本来入るべきタイミングから遅れてしまったらその分曲自体の進行も遅らせてしまえば良い、という考えです。これで原理上ミステイクという概念が消失します。


それはそれで演奏が難しそうですね。。


K:僕はこれを思い付いたときは凄い発明だ!と一人興奮しましたが、それを実現する為に逆説的に猛練習をする羽目になりました。非常に不安定な音を基準としつつ臨機応変に対応し、しかもそれを双方向で行う為には最も非効率でアナログな反復練習という方法を取るしかありませんでした。

ひたすら反復練習を繰り返して、多少複雑だろうが譜割りを気にしたり拍を数えたりフレーズの成り立ちを考えたりしなくとも体で、それこそ脊椎反射的に演奏出来るようになれば、互いの音に臨機応変に対応出来るようになる。結果ちゃんと演奏しなくても楽曲としては成立する、というロジックです。


バンド単位での訛りとかクセとか、個々の演奏技術の凹凸とかも丸ごと肯定して、咀嚼して転がしていくスタイルなんですね。呼吸のように伸び縮みするグリッドも、バンドが反復に継ぐ反復の上で導き出した黄金比ということでしょうか。


K:一般的に音楽は「時間芸術」と言われますが、僕はイマイチそれが納得できなくて、、音楽は寧ろ「空間芸術」ではないか、と思っています。DAWのグリッドのような時間軸に沿って音を鳴らすのではなく、ボコボコと伸び縮みする3次元の空間そのものから音が鳴るというイメージでしょうか。


なるほど。


K:僕らのグルーヴが快楽性が高いとすれば、それは時間軸を基準とせず、各々の出す音に互いに反応し音を出し合うことそのものの本来的な気持ち良さによるのかもしれません。


資料やインタビューを読み込むとレッドクレイオラ、ジョーンオブアーク、トンゼーなどヒントとなるキーワードは出てくるものの、ドイサイエンスにそれらのトレースの跡は感じません。強度の高い音ながらもこうしようと予め設計図を作った音というよりはバンドの"象徴"ドイさんのキャラクター含めて「天然」「偶然」の要素の結晶のようにも思えるし、セッションでは作り出せないような不思議なモチーフにも思えてきます。
サウンドにおけるインスピレーション、それから楽曲内で大事にしている事は何ですか。


K:確かに上記のバンド、アーティストには強く影響を受けていますし、何ならそれなりに影響を表出させたいと思っているのですが、どうにも上手く行かないのです...苦笑。向いてない(笑)。

インスピレーションは、ジャンルやシチュエーション問わず本当に様々なところで沢山受けますが、音楽そのもの以上に音が鳴り始める前の間や鳴り終わる瞬間のようなものにハッとさせられることが多いです。なので、そういう音楽として成立するギリギリの音、ディテールの中のディテールのようなものを自分の作る音楽でも多く取り入れていきたいといつも思っています。


細部や休符への飽くなき拘り、タイトロープの展開。どれもDoit Scienceのサウンドに強く感じられます。


K:それと音楽を作る上で一番大事にしていることの一つは、演奏していて純粋に楽しいかどうか、弾いていて気持ち良いかどうか、ということです。一瞬のフレーズであっても気持ちが高揚し心震えるようなものにしたいと考えています。

それは、自分だけでなく他のメンバーに対しても同じで、フレーズなどを提案する際も彼が弾くだけで楽しく気持ち良いであろうものを提案したいと思っています。まぁ、結構な確率で却下されますが(笑)。


楽しさ、気持ち良さ、なんですね。大事な…というか根本的な事ですが、たしかに忘れてしまいがちですよね。


K:あとは、他のメンバーが間違ったときにインスパイアされることも多いです。そういうミスというかエラーを展開させることで自分の当初のテーマやイメージがいつの間に捻じ曲がっていく感じが好きです。というか自分のイメージ通り進んでも余り面白みを感じなくなってしまいました...。最早常にエラー待ちしてる状態です(笑)。


タイトルや歌詞などの部分についても聞きたいです。楽曲内ではチャンク的な感じで使っているので意味性が遮断されて聞こえたり、タイトルや歌詞も主語の少ない俯瞰/客観な視点のものを多く選んでるように感じますが、バンドの言葉の部分に対してはどういう捉え方をしていますか。


K:歌詞は基本的には語感重視ではあるのですが、一見意味のないような言葉でも聴く人によって様々なことがイメージされるものだと思っていて、出来れば聴く人のイメージを大いに掻き立てたいと、実は結構真剣に歌っています(笑)。


キヨタさんに送って頂いたこの曲の歌詞を見た時、衝撃的でした…。情報量も展開も多い曲なのに、まさか「夢じゃないかもしれない」以外のことを一言も発してないとは思いもしませんでした。(左図)


K:意味のない擬音や単純な言葉やフレーズであっても歌い方や気持ちの置き方次第で重層的で多角的な意味を与えることが出来るはずですし、それが言葉や詩が音楽と一緒になることで成立する歌詞というものの醍醐味の一つではないでしょうか。


また、歌詞を作る際に敢えて主語や目的語を省いたり一見全く関係ない言葉を差し込んだりすることで一気にイメージが広がり風景が浮かんだりする瞬間があって、言葉や詩の奥深さに感動してしまうこともよくあります。


とか言いつつ実際には無意味なことばかり歌っているのでアレですが、僕も何とか頑張ってそういう感動を聴く人に与えたい、という気持ちも実は結構あります(笑)。


特にドイさんやキヨタさんはリスナーとしても狂がつくレベルの音楽ファンだし、熊本NAVAROでずっと開催している『Art Blakey』というイベントなど常にヨコへの目線、そして同時代の音たちへの視点を大事にしているように思います。そして、それと同時に、そこに引っ張られない軸の強さも感じます。皆さんの活動拠点の熊本という場所の現在、それからそこからの影響についてはどう考えてますか。


K:熊本については本当にたまたま住んでいるだけと言うか、特に地元愛みたいなものはほぼほぼないのですが、僕らがホームとしているNAVAROについては本当にありがたく思っています。「Art Blakey」のような無茶な企画を出来るのもNAVAROがあるからこそです。

ここ数年、若くてセンスの良いバンドが少しずつ出てきていて本当に嬉しく思っています。それは僕らの耕した土壌にようやく、、みたいなものではなく純粋に彼ら自身のセンスや経験によるものですが、どうやって彼ら若者に足を踏み外させるか、一般社会的な幸福からドロップアウトさせるか、みたいなことはよく考えます(笑)。


土地そのものが、というよりはNAVAROという場所こそが皆さんを結び付けているんですね。思えばルロウズが初めてDoit Scienceと出会ったのもNAVAROでした。


K:NAVAROは元々が所謂クラブなのもあってバンド以上にクラブミュージックの企画が多く、そのおかげで以前は殆ど知らなかったような音楽やカルチャーからも大いに刺激を受けています。それを僕らのバンドに昇華出来るかどうかはまた別のことではありますが...。

今回のコロナ禍においてNAVAROも苦境に立たされています。そのドネーションコンピでNAVAROの音楽的な懐の深さの一端が垣間見れるので是非チェックしてみて下さい。https://navarokumamoto.bandcamp.com/releases


今回の新曲「夢じゃない」は既にライブでも定番となっている曲ですよね、情報量が多いのか少ないのかわからなくなるシンプルなモチーフと豊富な仕掛けがありつつ、楽しさ、儚さ、中盤からのロック的カタルシス、爽やかな聴後感。。バランスが絶妙だなあ、それでいて私はなぜか川の流れのように自然だなあという感想を抱きました。今後このバンドでどういう音を作っていきたい、あるいはどんなチャレンジをしたいというイメージはありますか。  


K:「自然だなぁ」というのは嬉しい感想です! 実はアレンジを考えているときに頻出するワードは「自然に」です。このバンドにおける究極の目標は、限りなく無音に近づきながらもグルーヴィー、というものです。

僕らの演奏はほぼほぼ無音なのにフロアでは皆な手を叩き足を鳴らし腰を振り自然とコールアンドレスポンスが沸き起こる。音自体は僕らが出しているのではなく聴く人の頭の中に流れている。そんなイメージです。

僕らは、聴く人の想像力をどれだけ掻き立てられるか、ということにこれまで以上に拘っていきたいと思います。


最後に、Doit Scienceの音にとって、あるいは自身にとってのオールタイムベスト5枚を教えてください。  


K:このバンドをやるにあたってインスパイアされた5枚を紹介させて下さい。
割にベタですが。

・The Red Krayola / God Bless Red Krayola And All Who Sail With It

・Captain Beefheart & Magic Band / Shiny Beast (Bat Chain Puller)  

・Joan of Arc / Portable Model of...

・Tom Ze / Jogos de Armar  

・Maher Shalal Hash Baz / Blues Du Jour


Doit Science

’02年春、熊本にて、ノイズ/インプロ・ユニット”鬼☆弁慶”が、ナイーヴな駄目青年ドイの更生をもくろみ、無理矢理バンドに巻き込む形で結成される。 よって当初のバンド名は、「Doit Chance / ドイチャンズ」であった。音楽性も、彼のパーソナリティを反映させるべく、Galaxie500~Luna的なナイーヴ・ロックを標榜していた。しかし、あまりの演奏力の無さと、なによりもドイ自身の更生への意思の弱さ、更に、ミック・カーンをフェイヴァリットに挙げるベースの山口が、ベースをフレットレスに改造したため、音楽性の変更と、それに伴いバンド名の変更を余儀なくされる。「ドイ・サイエンス」改名後は、”レッド・クレイオラmeetsレッド・ツェッペリン”的アンサンブルを夢見て、グダグダのテクスチャーと無闇なコーラスの反復練習に励んでいる。’07年11月、自主レーベルmellowsounds worksより1stアルバム『Technology』を発表。 ’10年4月、OWENとTim Kinsella(Joan of Arc)と共演した博多住吉神社能楽殿でのアコースティック・ライヴを収めたCD-Rを発表。 ’11年4月、& recordsの東日本大震災ベネフィット・コンピに上記ライヴCD-R収録曲にて参加。自主企画”Art Blakey”を主催。アート不毛の地・熊本にて、国内外から有名無名問わず、オブスキュアで刺激的なアーティストを多数招聘。これまでのゲストは、FLUID、elevation、Teppohseen、ヨルズ・インザ・スカイ、Accidents in too large field、Micchel Doneda、山内桂、velocityut、California Dolls、一楽まどか、,雅だよ雅、d.v.d、工藤冬里(Maher Shalal Hash Baz)、Fresh!、ドラびでお、勝井祐二、山本精一、RUINS alone、COMBOPIANO、テニスコーツ、電子卓上音楽団、nhhmbase、the guitar plus me、miyauchi yuri、Autumnleaf、worst taste、マクマナマン、Lawrece English、KIRIHITO、PANICSMILE、百景、awamok、Rachael Dadd、Ichi、いんぱらのヘソ、ヒゲの未亡人、cokiyu、倉地久美夫+外山明、アニス&ラカンカ、等々多岐に渡る。