2ndフルアルバム『ANÖKUMENE』解説
シュールの極北、低反発ポリ/クロス/マルチリズム。
アルバムとしては4年ぶり2作目、ルロウズが辿り着いた境地は
オルタナティブなれの果て、休符のうるさいアヴァンパンク、
日本インディのモノリスたる寄る辺なき彼岸の音。
Spotify/AppleMusicでも配信始まりました。CDも通販開始してます。というこのタイミングで備忘録的に収録曲メモを残しておきます。
ルロウズ新譜『ANÖKUMENE』は2018年/2019年の2度のUSツアーを経て全身で感じた事へのリアクションです。雑念を捨てる事。チャレンジングである事。休符や余白をこれまで以上に信頼する事。3個の楽器、3個の声を使ってマクロ/メタ的にアレンジする事。腹6分目というか、まだ食べられるよって感じの絶妙に”欠けた”作品にする事。
録音でいうとベースとギターはリアンプなどせず完全にラインのみにしました。録音/ミックスの久恒亮氏(studio zot)がギタリストだからっていうのもあって、信頼、あるいは後で何とかなるだろうという甘え、があった、というのもあります。
1.訪れを(The Coming)
結成1年目に作った楽曲の解体/再構築。OOIOOの"UMO"、あとはBrigitte Fontaineの"Comme à la radio"のように1つのテーマだけを伸び縮みさせて楽曲を成立させるって発想を援用しました。スタジアムロック大好きな私としてはこの曲をみんなに覚えてもらって全員でクラップ/ストンプしたいのですが、それなりに訓練しないと出来ない難易度になってます。というか厳密にはこのテイクも最後の3拍5連になる時に混乱してミスってますが、飛行機で感じる重力の変化のような、ぐっとくるブレーキ感が面白かったのでこのまま採用しました。
studio zotでストンプのオーバーダブを何度もしていてふくらはぎを痛めたのも良い思い出です。
2.折鶴(Papercrane)
この曲は元々Q AND NOT Uの”SOFT PYRAMIDS”みたいな変型サンバのアレンジを施していたもののいまいちしっくり来ずお蔵入りしていたものだったのですが、ベースを消したりシーケンス+トラップ風ビートを差し込んだら上品で新しい感じになったので収録しました。キックとスネアの位置は山本氏をうちに呼んで1音ずつ吟味を重ね、「やりすぎず、でも細部まで知性の網を張り巡らしてる」ポケットを5時間くらいかけて探しました。確か2拍5連と4拍子を往来する感じにしたはず。
派手にしたい、アウトロでカタルシスを作りたい気持ちを押し殺した中での? meytélのコーラスワークが雲間に差し込む一筋の光のようで尊いです。? meytélはいつだって最高。
3.It's (Not) Gonna Happen
個人的にはこのアルバムでいちばん自分の常識に挑戦したのがこの曲です。以前の私だったら「退屈」という理由でそもそも収録しなかったと思うし、収録したとしてももっとギミックを増やした筈。
John Lee Hookerの"BOOM BOOM"をダダで叩いて均したようなフレーズと喜怒哀楽のどれにも所属しないブルーズ。禅問答のようなリリックと投げやりなコール&レスポンス。ドラムのフレーズは2回全く同じように叩いたものを意味深にダブリングしてますが意味は特にないです。クリックを鳴らしてないので中盤でうっすら崩壊しているところが好み。終盤のシャウトはBECK"DEVIL'S HAIRCUT"終盤のオマージュですが何故と聞かれても理由はなし直感のみ。本作でいちばんシュールな楽曲です。
4.演じるサイン(Perform/Sign)
サウンドの骨格かなり直接的な影響としてはNonameの"Blaxploitation"。あとはSilver Applesの"Seagreen Serenade"。高速で軽やかでごり押しする感じに憧れて、あるいは憧れたのに、結果こうなりました。やりようによってはいちばんキャッチーに成り得た曲だと思うのですが、ビターなムードが気分だったので、何とも奥歯にものの挟まったような見通しの悪いアレンジになりました。ライブで演奏する時はここぞとばかりに音量を下げて演奏するのですが、音量を下げて演奏するのって音量を上げて演奏するのと同じくらい、いや、それ以上に効果があるし、何より演奏していて興奮しますね。ベースはこの曲がいちばん難しかったそうですが私は寝起きでも演奏出来るくらい簡単。
5.睡蓮(Waterlily)
もう何度でも言いますが高校生からNOFXのファンです。この曲を脳内でFat Mikeが歌って2ビートになったように置き換えてみてください。ほら、旋律からコード感から尺から…あまり得意げにいえることでもないけど…NOFXでしょう?コレみたいな。
ルロウズの作詞作曲アレンジは基本的に私がやっていて、ドラムベースのこうしてほしい/これは違う、は結構俯瞰で見えるのですが、ふと自分のギターを顧みると正解が長いこと見えず、じゃあほぼ弾かない!と開き直ったプレイ。イメージとしてはシンバルの代わり、ハイハットの代わり、みたいな感覚ですが、換骨奪胎系アレンジをやるときにこのドラムをバラバラにして別楽器で置き換えるってのはいろいろ応用が利く方法論で、使い方によってははっとするサウンドになると思います。リズムは5の細かいパルスを使って訛ったように聞こえるグルーヴになってます。
6.クーデター(Coup)
本作を作るにあたってマイルストーンとなった曲です。前作の延長線上のサウンドの曲も割とあったし、それでミニアルバム的なものを録音をすることも可能だったのですが、この曲がこのアルバムを導いたといっても過言ではないです。
これまでルロウズで試してこなかったアイデアが全部入ってます。ストラトのアーミング奏法については次の曲でひとつの結実をしますが、まだ金脈がゴロゴロしてるものと思ってます。タテを放棄したドラムについても、結局その曲がかっこよく聞こえればそれが正解ってのがわかりました。リズム楽器としての役割をやめ、ボーカルの影のように零れながらつきまとうベース、これはビバップが2管で旋律を吹いてるのにインスパイアされたものですが、非常にある種のムードを醸し出すのに役立っています(当社比)。
イメージはショパンの"革命"、90 Day Menの"National Car Clash"の6:19~、それにイレイザーヘッドの"In Heaven"。時代の奔流/荒れ狂う大河と静謐な深い霧の対比の感じ。
また、いうまでもなく? meytélはいつだって最高。ほぼディレクションなし。
7.鋏のあと(Trace)
1stフル『CREOLES』にも収録されてる曲ですが、M6「クーデター」の対になるようなアレンジにしました。このアレンジは懐が深いので、中心となるリフさえあれば、いろんなパートを伸び縮みさせたりしても自信満々な感じさえ出しながら演奏すればだいたい成立するので、初心者バンドとかでも援用出来ると思います。
Doit Scienceのやってる(コレとか)BPMを無理なく伸縮させる/伸縮させているように聞こえるアレンジをマネしたかったのですが、ようやく自分たちなりに落とし込めた気がしてます。
*
商業的な作品ではないですが、過去一番チャレンジングな作品になったと自負しております。サポートをしてくれているDEAF TOUCH、それからBandcampでお求め頂いたみなさん本当にありがとうございます。
ライブをしたくても出来ない、そもそもライフすら危ぶまれる、私たちにとっても、皆さんにとっても大変な時ですが、これらの曲たちが何らかの助けになれば、あるいはひと時の気晴らしになれば何よりです。
LOOLOWNINGEN