【MITOHO SESSIONS】吉祥寺公演終了!ご来場頂いた皆さん本当にありがとうございました。
レコード水越はいつだって最高、いつも通り最高。ルロウズ転換中に回していた曲が何だったのか聞きそびれました。未踏峰を冠に謳うルロウズのイベントシリーズ、これまで幾多の素晴らしい方にご出演頂いてますし、もちろん私たちもそうありたいと思ってますが、結局スッパさんがいちばんこの精神を軽やかに体現したアーティストと思います。未知、異端、辺境、それだけにとどまらずあまねく全ての音へのあくなき好奇心と挑戦。
吉田ヨウヘイgroupはまさかのリフ化、ロック化、ファンク化。これまでの方向性の曲が物理的に出来なくなったから…とMCで言ってましたが、ほぼ新曲のセットにひたすら痺れました。バンドのブランドに安住せずチャレンジする姿勢、模索する態度、あがく生き様、最高にカッコいい。そしてその上で通底和音として残る吉田氏のメロディ感、リリック感、吉田ヨウヘイgroup節といえるコンポジションの仕掛けなど。元はといえば彼らをオファー時に聞いた「ほぼ全部変えた」という言葉に煽られるように私たちも今回のチャレンジを決意したのを改めて思い出しました。
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そして今回のルロウズのチャレンジについても非常に思い入れがあるものですのでセットリストと共に書かせてください。
今回のチャレンジの骨子は、というかこれまでのルロウズもある程度はそうですが”オーソドックスなロックトリオ編成(大編成は甘え)と最小限の機材と技術(エフェクターは甘え)でロックミュージックをどこまでモードチェンジ出来るか(常識は甘え)”という部分。また今回特に音響部分にフォーカスをして”気持ち良さ”というものへのルロウズ流のアプローチ。また個人的にはストラトのアームのポテンシャルを限界まで引き出すこと(ロック式は甘え)。以上を極端なデフォルメ化した結果ドラムは3点(タムは甘え)、アンプのボリュームも目盛り2くらい下がり(爆音は甘え)、チューニングが一個も安定しない(音程は…甘えではないか…)異形の音が誕生しました。
JON BAPやKING KRULEなどの新感覚を持ったクールなバンドたちにも触発されました。
1.訪れを (楽器は甘え)
オリジナルはバンド結成直後に作ったものなのでおそらく2010~2011年頃。廃盤になっているデモCD-R収録の曲ですが大胆にボイス、クラップ、ストンプのみに完全リアレンジしました。3人なので異様な感じの仕上がりになりましたが20人くらいでこれをやればオールブラックスのハカみたいになると思います。歌に対して捩れる変拍子や最後の5拍3連が鬼難しいのとキーが高いのでいっけんフロアの人たちも参加出来そうなのにハードルが高いのが悩みですが、逆説的に気づきが一番多かった曲の1つです。
2.折鶴 (サンプラーは甘え)
おそらく仙台で1回演奏したのみだった曲。もともとQ AND NOT Uの"SOFT PYLAMIDS"っていう曲のポストサンバみたいな雰囲気を出すべく、上田氏が1フレーズのみの高速パーカッションを1曲通して超ストイックに叩く+ハードコアレゲトンみたいなドラムの曲だったのですが、今回はさらにマゾヒスティックにドラムの音数を極端に減らしてトラップ化、でいて別テンポが混ざってるふうに聞こえるように細かい5拍子で配置。ドラムの置き方を決める作業は低血糖になるくらい脳と感覚を酷使しました。
3.it's (not) gonna happen (展開は甘え)
完全新曲。私たちはfolk enoughが本当に好きなのですが、彼らのライブ中盤で発生する「何も変化が起こらない」、言ってしまえばある種「退屈な」時空間の創出は最高にクールだと思っています。私は自分の作った1曲1曲を自分の子どものように思うところがあって、そのため過剰に意匠を凝らしたりするクセがあるので、楽曲内のラウド/クワイエット/ラウドを拡張してセットリスト全体の流れの中でラウド/クワイエット/ラウドを作り出すメタ視点にはアイデア自体には興奮するのですが同時にずっといいのかな、とも思ってました。
4.演じるサイン (爆音は甘え)
完全新曲。今回のセットリストの中で最も音量が下がるくせにBPMはルロウズ史上最速の210。トリオのこれまでのクセでは楽曲の盛り上がりに応じて3人それぞれ一斉に音を上げたり下げたりしてたのですが、そこからの解放を目指した曲。ボリュームが0.5くらいだったトレモロでフッワフワのAとAmを繰り返すだけのギターが最終的にベースとドラムを掻き消していく、砂に書いた文字のようなアレンジ。骨格が比較的普通の楽曲もこの書法を使えば新しく聞こえる、と内部的に興奮した曲です。
5.睡蓮 (ハイハットは甘え)
ライブでは殆どやっていなかった曲。元アレンジはアッパーでディストーションに塗れた曲だったのですが、ジャコメッティの彫刻のように細かい5拍子のリズムの骨組みだけを抽出し、エモーショナルな曲なのですが敢えて超クリーントーンのギターの音量を最小限まで絞った、演奏する人間にも聞く人間にも緊張を強いる"間"のサウンドに。ただでさえ少ない点数のドラムの、ハイハットの部分さえギターが奪うみたいな構造で、空間をこれだけ作るとタテの揺らぎだけで感情の陰影を表現出来るという大きな発見がありました。
6.クーデター (グリッドは甘え)
先行でデモは公開してたもののライブでは初披露の完全新曲。この曲があったから今回のプロジェクトをやろうと思えた、下品な言葉で言えばケツを叩いてくれた曲です。
デモこそ空間処理いろいろやってますが、今回のライブアレンジでやりたかったのは2020年代のサイケデリックの方法論の提示。ファズとエコーを封印しひたすらロウな音で、千鳥足のドラム、不安定なギター、抑制された歌と歌の影をひたすら不器用に追いかけるベース。タテをなるべく合わせないようにする意識。歌詞含め、あらゆる点でルロウズの新しいモードのステートメントとなる楽曲と思っております。ストラトキャスターのアームの奏法ってまだまだ金脈がゴロゴロしていると確信してます。
7.鋏のあと (楽譜は甘え)
『CREOLES』収録バージョンでは爆音ノイズトライバル曲ですが徹底的にパッサパサにリアレンジ。極度乾燥しなさい。決め事も2,3個程度で尺すらもフリー。歌い出したらそこが1拍め、みたいな自由度ながらとにかくひたすら音数を減らして構造上必要な柱みたいなものすら取っ払ったおかげでクールな感覚が前面に出てくる、割と必殺曲になった気もしてます。ストラトキャスターのアームの奏法ってまだまだ金脈がゴロゴロしていると確信してます(その2)、吉田ヨウヘイ氏をして「モジュレーション系のエフェクター使ってるのかと思った」と言わしめた楽器壊れかねないレベルのベンドに抑えきれない熱量がこもります。
本当はかなり前に西田修大をゲストに迎え1度だけ演奏した「黄金の土」という曲を最後にやる予定でした。モノトーンの世界に一滴だけ垂らされた鮮やかなオレンジ。めざめからの再びのねむり。そこまでやって本プロジェクトの全貌を表現出来た筈なのですが、どうしてもリアレンジが定まらず泣く泣くカットになってしまいました。またこのセットをライブで演奏するかは未定ですが「黄金の土」も加えた状態でこのセットをまるまる録音するつもりではあります。
もちろん広く皆さんに聴いてほしい音ではあるのですが、特に脳内で鳴るサウンドの表現のためにメンバーが足りない、エフェクターが足りないと思ってリソースに悩んでるミュージシャンに私たちの今回の一連のアイデアが届きますように、そして励みになりますように…!
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さて、ルロウズ新着ライブいくつか発表されております。それについては追ってまとめてこちらでもお知らせさせて頂きます。東京の方はとりあえず先ですが11/12新代田FEVERをお見逃しなく。
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